剣術の基本的な型と斬撃動作についての解説

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用語解説

剣術の型

 それぞれの呼吸、それぞれの型の解説に於いて、「真向」「袈裟斬り」「左袈裟」など、普遍的な剣術用語を用いて解説しているが、そもそも、日頃から剣術に馴染みのない読者に於かれては、それすらも「何の事やら?」と思われるかもしれない。

 従って、この項では、いわゆる「日本刀」を構えた際の基本的な型と、斬撃の動作を解説申し上げたい。

 また、わざわざ「日本刀」と断りを入れたのは、武器が刀ではなく槍や薙刀、あるいは杖や棒などになると、当然の事ながら構えも動作も違ってくるからであり、あくまでも本項での説明が当て嵌まるのは、刀の場合だけである事に留意して頂きたい。

目次

真向斬り(まっこうぎり)

真向斬り(まっこうぎり)

 「真向」と略して呼ばれる場合もある。真向切りとは通常、刀を頭上に高く振り上げた「上段の構え」から、正面を向いている敵の正中線(脳天から眉間、喉、胸骨、鳩尾、金的までを繋いだ一直線)を狙って真っ直ぐに振り下ろす動作を指す。

真向斬りの例


水の呼吸 捌ノ型 滝壺(たきつぼ)

【参考動画】
真向斬りに於ける
正しい動作の解説

袈裟斬り(けさぎり)

袈裟斬り(けさぎり)

 「袈裟」と略して呼ばれる場合もある。袈裟斬りとは通常、刀を右上に高く構えた状態、もしくは右上に大きく振り上げた状態から、正面を向いている敵の左肩から右腰骨辺りまでを斜めに振り下ろす動作を指す。

 もちろん、袈裟とは本来、剣術の用語ではなく僧侶の法衣を指す呼称である。伝統的な袈裟は(何故か)肩紐が左肩側にしかない物が多いが、まるで、その肩紐の線に沿って斬るかのような軌跡になるので(当初の呼び方がどうであれ)袈裟斬りという呼称が定着したものと思われる。

袈裟斬りの例


風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ(じんせんぷう・そぎ)

一文字斬り(いちもんじぎり)

一文字斬り(いちもんじぎり)

 流派によっては「横一文字斬り」「右横一文字斬り」等と呼称する場合もある。通常、一文字斬りは敵の首、もしくは胴体を狙って、刀を漢字の「一」の文字のように右から左へ水平に振り抜く動作を指す。

 尚、左から右へ振り抜く場合は「左一文字斬り」となるが、流派によっては左右を問わず、水平方向の斬撃は全て「横一文字」で統一している場合もある。

一文字斬りの例


月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾(げつりゅうりんび)

逆袈裟斬り(ぎゃくけさぎり)

逆袈裟斬り(ぎゃくけさぎり)

 「逆袈裟」と略して呼ばれる場合もある。また、流派によっては「ぎゃくけさ」ではなく「さかげさ」と発音する場合もある。「袈裟斬り」が刀を右上から左下へと振り下ろす動作であるならば、逆袈裟斬りはそれを上下反転させて、右下から左上へと振り上げる動作となる。

【参考動画】
真剣による実際の逆袈裟斬り

左袈裟斬り(ひだりけさぎり)

左袈裟斬り(ひだりけさぎり)

 「左袈裟」と略して呼ばれる場合もある。「袈裟斬り」が右上から左下へと刀を振り下ろす動作であるならば、左袈裟斬りはそれを左右反転させて、左上から右下へと振り下ろす動作となる。

左一文字斬り(ひだりいちもんじぎり)

左一文字斬り(ひだりいちもんじぎり)

 一文字斬りが刀を右から左へ水平に振り抜く動作を指すならば、左一文字斬りはそれを左右反転させて、左から右へと振り抜く動作を指す。ただし、多くの流派では、右から左へと振り抜く「右一文字」を指して「一文字斬り」と称し、一連の動作である「型」に組み入れる場合が多く、「左一文字」はあまり見られないのが実情である。

 また、左右を問わず、水平方向の斬撃は全て「横一文字」で統一している流派もあり、その場合、素振りや試し斬り等で左右を特に区別する必要がある時のみ、「左横一文字」「左右一文字斬り」等と呼称される。

左一文字斬りの例


ヒノカミ神楽 碧羅の天(へきらのてん)

【ご注意】


 一文字斬りや左一文字斬りとは原則的に「諸手」、つまり両手で刀を握っている状態での呼称であるという点に、くれぐれも留意して頂きたい。

 いわゆる「抜きつけ」や「抜き打ち」、つまり、抜刀直後に刀を両手で握り直さずに、そのまま片手で斬りつける場合は、左から右へ振り抜いた場合でも「片手一文字斬り」等と呼称し、「左」の文字は付かないのが通例である。

片手一文字斬り(抜きつけ)の例


雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)

【参考動画】
真剣による実際の
片手一文字斬り(抜きつけ)

左逆袈裟斬り(ひだりぎゃくけさぎり)

左逆袈裟斬り(ひだりぎゃくけさぎり)

 「袈裟斬り」が刀を右上から左下へと振り下ろす動作であるならば、左逆袈裟斬りは上下左右を反転させて、左下から右上へと振り上げる動作となる。

左逆袈裟斬りの例


雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷(ねつかいらい)

突き


 流派によっては「刺突」(しとつ)と呼称する場合がある。突き技には「諸手突き」と「片手突き」があり、諸手とは、つまりは「両手」の事である。通常、突き技は敵に躱された場合に自分の体(たい)がガラ空きになってしまう為、開けた場所での戦いで多用される事は無い。

 屋内などの狭い場所で充分に刀を振り回せない場合や、もしくは敵を「突き放して」距離を置きたい場合に用いられる事が多い。

諸手突きの例


霞の呼吸 壱ノ型 垂天遠霞(すいてんとおがすみ)

片手突きの例


水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き(しずくはもんづき)